夢の祭
真っ暗な会場いっぱいに地の底から響いてくる地吹雪の音、まるで北端の地、雪に埋もれた津軽平野… 薄暗い明かりの中に真っ赤な泥絵の具で描かれた大凧絵、そして圧倒的な迫力で鳴り響く津軽三味線。
曲名は“嵐”、演奏は岡田 修氏。
やがて、曲は“火の鳥”へ、激しく情熱的なバチの音を聞きながら私はベルリーナ20周年記念パーティでの光景を思い浮かべていました。
11年前ロイヤルホテルで開かれた記念パーティでの演奏も、やはり最後の曲は岡田 修さんの“火の鳥”。バックスクリーンいっぱいに手塚治虫の描く火の鳥(フェニックス)が、今まさに天に向って一直線に飛び立つ印象的な映像。激しく燃え上がる火の山から響いてくるような津軽三味線の響きに11年前にタイムスリップしていた私は、会場いっぱいの拍手で現実に引き戻されました。
すると、どうしたことでしょう?舞台中央で三味線を抱えた岡田さんがなんと一瞬、柴田恭兵扮する津軽三味線に取り憑かれた貧しい青年、健吉に見えたのです。健吉とは昔見た長部日出男監督の映画“夢の祭り”の主人公の名前です。
“夢の祭り”という題名に魅かれて観たのですが、ストーリーも大変魅力的で不思議に記憶に残った映画でした。(その主人公、柴田恭兵に三味線の指導をしたのが岡田 修氏でした。)
あれから10年余り、岡田さんは益々円熟味を増され津軽三味線の名手として有名な方ですが、私自身のこの10年を顧みてどうだったのか?あの日パーティで“火の鳥”を聴きながら「これからの10年、性根を入れてしっかり頑張ろう!!」と心に誓い、以来、今日まで頑張ってきたつもりだったけれど… 今、私は満足感にも達成感にも程遠い感じです。それだけに、2月の演奏会を知ったとき“もう一度あの「火の鳥」を聴きたい!”という衝動に駆られたのです。そして、この演奏会は私にとって最高のプレゼントとなりました。
激しく響き渡る津軽三味線を一心に聴いている時に、ふと「人生は祭りだ! 冷めて眺めているなんて…、自分のリズムで踊ってみよう!」いつかどこかで聴いたこの言葉、“人生は祭りだ!”忘れていたこのフレーズが頭をよぎったのです。
私は不思議なくらい自分の年齢を感じたことがありません。人生は今からだ、まだまだ錆びてなんかいられません。もう一度自分のリズムを創って、かけがえの無い大切な私だけの祭りを楽しみたいと思うのです。なぜって?人生は祭りだから…です。